はじめに
取材が終わり、文字起こしが手元にある。
ここから記事の形にするまでが、取材記事でいちばん時間がかかる工程です。
インタビュー・取材記事の書き方
では取材記事全体の流れを扱いました。この記事はその中の
「文字起こしを記事に組み替える手順」と「校了までの進め方」だけを扱います。
最初に押さえるべき原則はひとつです。
話した順に書かない。 インタビューは話が行き来するので、
そのまま時系列で書くと読みにくい記事になります。
この工程は、取材をしていない人でも練習できます。
公開されているインタビュー動画やポッドキャストを題材に、
文字起こしから記事を組み立ててみると、同じ手順をそのまま試せます。
未経験から取材案件に進みたい方は、ここから始めるのが安全です。
ステップ1: 素材を仕分ける
文字起こし全体を読み返し、3種類に印をつけます。
| 印 | 意味 |
|---|---|
| ◎ | 記事の核になる発言(必ず使う) |
| ○ | 使えそうな具体例・数字・エピソード |
| - | 雑談・重複・本筋から外れた話 |
60分の取材なら、◎は3〜5個に絞ります。
ここで絞れないと、全部を詰め込んだ散漫な記事になります。
「-」を削る勇気が品質を決めます。
せっかく聞いた話を捨てるのは惜しいですが、
入れると記事が薄まります。使わなかった話は次の記事の種として残しておきます。
ステップ2: 記事のゴールを1文で書く
仕分けができたら、この記事で読者に何を持ち帰ってもらうかを1文にします。
この記事を読んだ人が「◯◯すればいいんだ」と分かる状態にする。
これが決まると、◎のうちどれを主役にするかが決まります。
逆にここが曖昧だと、構成が最後まで決まりません。
取材前にゴールを決めておくのが理想です
(取材の質問リストの作り方参照)。
ただし取材で話が想定外に展開したら、ゴールを書き換えてよい。
面白い話が出たなら、そちらに寄せるほうが良い記事になります。
ステップ3: 構成を組む
基本の型
リード(書き出し)
├ 一番強い発言 or 読者の悩み
└ この記事で何が分かるか
本文1: 現状・背景
└ なぜその話が必要なのか
本文2: 核心(◎の主役)
└ 具体例・数字で裏づけ
本文3: 具体的な方法・経緯
└ 読者が真似できる形に
本文4: 失敗・苦労(あれば)
└ ここがあると記事の信頼感が上がる
まとめ
└ 読者へのメッセージ・次の行動
リードの書き方は
取材記事の書き出しの型
で詳しく扱っています。リードは本文を書き終えてから書くのが早いです。
並べ替えの原則
読者が疑問を持つ順に並べます。
取材では「経歴 → 現在の取り組み → きっかけ」の順に聞いていても、
記事では「いま何をしているか(結論)→ なぜそうなったか(背景)」のほうが読まれます。
面白い話を後ろに置かない。 読者は最後まで読まない前提で並べます。
見出しは発言から作る
見出しに相手の言葉を使うと、取材記事らしさが出ます。
❌ 組織改革の取り組みについて
⭕ 「売上を追うのをやめた」組織改革の3年間
ステップ4: 書く
話し言葉を読み言葉に整える
そのまま起こすと「えーと」「まあ」「なんか」だらけになります。
意味を変えない範囲で整えるのは、取材記事では普通の作業です。
起こし: 「えーと、まあ、そうですね、やっぱり一番大きかったのは、
その、人を信じるっていうか、任せることだったかなと」
記事 : 「一番大きかったのは、人に任せることでした」
ただし、発言をねじ曲げない
ここが取材記事固有の一線です。
やってよいこと: 言い回しを整える/長い発言から一部を抜く/語順を直す
やってはいけないこと: 言っていないことを書く/文脈を切り取って意味を変える/
複数の発言をつなげて一つの発言に見せる
記事を面白くしたいあまり、発言を大げさにするのは避けます。
取材記事は、相手の言葉に責任を持つジャンルです。
「地の文」と「発言」のバランス
発言の引用だけを並べると、読みにくくなります。
地の文で文脈を補い、発言で裏づけるのが基本の構造です。
組織の規模が20人を超えたころ、△△さんは限界を感じたという。
「全員の進捗を把握しようとしていたんですが、どう考えても回らなくなって」
ステップ5: 事実確認
書き終えたら、数字・固有名詞・制度を確認します。
相手が語った内容でも、記憶違いはあります。
- 社名・サービス名の正式表記
- 年号・期間(「3年前」が何年か)
- 数字(売上・人数・率)
- 制度・法令の名称
手順は
AI記事のファクトチェック手順
と同じ考え方で進められます。
ステップ6: 校了までの進め方
取材記事では、公開前に相手に原稿を確認してもらうのが一般的です。
確認依頼の出し方
このたびの取材記事の原稿をお送りいたします。
事実関係の誤りや、発言のニュアンスが実際と異なる箇所がございましたら、
ご指摘いただけますと幸いです。誠に恐縮ですが、◯月◯日までにご確認いただけますと助かります。
(記事全体の構成・表現は媒体の方針に沿っておりますため、
事実確認を中心にご確認いただければ幸いです)
最後の括弧が実務上のポイントです。
これがないと、文章表現全体の書き換え要望が来ることがあります。
確認の範囲を事実関係に寄せることで、作業の往復を減らせます。
修正依頼が来たときの対応
| 依頼の種類 | 対応 |
|---|---|
| 事実の誤り | 即座に直す(最優先) |
| 発言のニュアンス違い | 直す(本人の意図が正) |
| 公開したくない情報 | 削る |
| 表現・構成の好み | クライアントと相談 |
最後だけは、取材相手ではなく媒体側の判断になります。
勝手に全面書き換えに応じると、媒体の方針から外れます。
修正の回数が膨らみそうなときの考え方は
修正無限ループを防ぐ契約の結び方
も参考になります。
確認が返ってこない場合
期限を過ぎても返信がないときは、クライアントに判断を仰ぎます。
自分で「問題なし」と決めて公開しないこと。後からトラブルになります。
まとめ
- 話した順に書かない。 読者が疑問を持つ順に並べ替える
- 手順は ①素材を◎○-で仕分ける ②ゴールを1文で書く ③構成を組む ④書く ⑤事実確認 ⑥校了
- ◎は3〜5個に絞る。「-」を削る勇気が品質を決める
- 話し言葉を読み言葉に整えるのは可。ただし文脈を切り取って意味を変えるのはNG
- 地の文で文脈を補い、発言で裏づける構造にする
- 確認依頼では「事実確認を中心に」と範囲を示す(表現全体の書き換え要望を防ぐ)
- 修正依頼は、事実の誤りは即直す/表現の好みは媒体と相談
- 確認が返らないときは自分で判断せずクライアントに仰ぐ
文字起こしは素材であって、記事ではありません。
捨てる作業と並べ替える作業が、取材記事の腕の見せ所です。

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