はじめに
AIが書いた文章を読んで、いちばん怖いのは「読みにくいこと」ではありません。
もっともらしい嘘が、自然な文章のなかに混ざっていることです。
「2024年に法改正が行われ」——実際には改正されていない。
「厚生労働省の調査によると約7割が」——そんな調査は存在しない。
こういう一文が納品物に紛れ込むと、クライアントの信用問題になります。
そして厄介なことに、AIは嘘をつくときも、本当のことを言うときと同じ自信で書きます。
推敲や校正が「読みやすさ」を担保する工程だとすれば、
ファクトチェックは「正しさ」を担保する別の工程です。
AIライティングの推敲・校正術
とは目的が違うので、分けて考える必要があります。
AIを使うときに守るべきルール全般については
AIで記事を書くときに気をつけるべき著作権・ルールの基本
にまとめています。
この記事では、時間をかけすぎずに誤情報を潰す手順を解説します。
なぜAIは嘘を書くのか
仕組みを知っておくと、どこを疑えばいいか分かります。
AIは「事実を検索して答えている」のではなく、
「次に来る確率が高い言葉を選び続けている」だけです。
そのため、
「厚生労働省の調査によると」という書き出しの後には、
それらしい数字が続くのが確率的に自然なので、数字を作ってしまうことがあります。
これが「ハルシネーション(もっともらしい誤り)」と呼ばれる現象です。
重要なのは、AIには「知らない」という状態がないということ。
知らないことを聞かれても、それらしい答えを生成します。
だから、AIの出力を疑う場所は最初から決まっています。
優先的に疑うべき5種類の情報
全文を検証していたら時間が足りません。危険度の高い箇所に絞ります。
① 数字・統計
「約7割が」「平均◯円」「市場規模は◯億円」
AIが最も作りやすいのが数字です。 出典が併記されていても、その出典ごと架空のことがあります。
② 法律・制度・税制
「2024年の改正で」「◯万円以下は申告不要」
制度は年度で変わります。AIの学習データが古ければ、古い制度をそのまま書きます。
確定申告・インボイス・社会保険まわりは特に危険です。
③ 固有名詞と、そのサービス仕様
「◯◯には無料プランがあります」「手数料は◯%です」
サービスの料金・機能は頻繁に変わります。
半年前の情報でも古いことがあります。
④ 出典・引用元
「◯◯大学の研究では」「△△白書によると」
存在しない論文・白書を作ることがあります。
出典が書かれているほど信頼できそうに見えるので、かえって危険です。
⑤ 時事・最新情報
「現在」「最新の」「今年から」
AIには学習データの区切りがあります。
「最新」と書かれていたら、まず疑うくらいでちょうどいいです。
実際の確認手順
ステップ1:疑う箇所に印をつける
原稿を通読し、上の5種類に該当する箇所をすべてマークします。
この時点では確認しません。洗い出しだけを行います。
慣れると、5,000字の記事で10〜20箇所くらいになります。
ステップ2:一次情報で裏を取る
マークした箇所を、発信元そのもので確認します。
| 情報の種類 | 確認先 |
|---|---|
| 税金・確定申告 | 国税庁 |
| 社会保険・労働 | 厚生労働省 |
| 表示・広告のルール | 消費者庁 |
| サービスの料金・仕様 | そのサービスの公式サイト |
| 統計データ | 総務省統計局・e-Stat |
まとめ記事やブログを根拠にしないのが鉄則です。
それ自体がAI生成で、誤りを含んでいるかもしれません。
ステップ3:裏が取れないものは書き換える
確認できなかった情報は、消すか、断定をやめる。
❌ 厚生労働省の調査によると、副業経験者は約7割に上ります。
⭕ 副業を経験する人は年々増えています。
数字がなくても文章は成立します。
「裏が取れない数字を残す」より「数字を落とす」ほうが、はるかに安全です。
ステップ4:確認日を記録する
制度やサービス仕様は変わります。
記事内に「2026年7月時点の情報です」と一文添えておくと、
後から古くなったときにクライアントも読者も判断できます。
これは自分を守る意味でも有効です。
AIにファクトチェックさせてはいけない
やりがちな失敗です。
この記事の事実関係を確認して
これを同じAIに聞いても意味がありません。
間違えた本人に「合ってる?」と聞いているのと同じだからです。
自信ありげに「問題ありません」と返ってきます。
ただし、使い方を変えれば役に立ちます。
この記事から、事実確認が必要な記述(数字・法律・固有名詞・出典)を
すべて箇条書きで抜き出してください。正誤の判断は不要です。
これは「洗い出し」なので、AIが得意な作業です。
抽出はAI、確認は自分。この分担なら成立します。
時間をかけすぎないための割り切り
ファクトチェックを完璧にやろうとすると、執筆より時間がかかります。
副業の限られた時間では現実的ではありません。
優先順位をつけます。
| 優先度 | 対象 | 対応 |
|---|---|---|
| 高 | 法律・税制・医療・お金 | 必ず一次情報で確認 |
| 中 | サービスの料金・仕様 | 公式サイトで確認 |
| 低 | 一般論・考え方 | 確認不要 |
「継続するコツは小さく始めること」のような一般論に、
裏取りは不要です。ここに時間を使わない。
逆に、読者が実際に行動して損をし得る情報(税金・契約・お金)は、
時間をかけてでも確認します。判断基準はここです。
誤情報を出してしまったときの対応
それでも起きるときは起きます。発覚後の対応で信頼は決まります。
- すぐ報告する(黙って直さない)
- どこが誤りで、正しくは何かを示す
- 修正版を出す
- なぜ起きたか、次回どう防ぐかを1行添える
◯◯の数値に誤りがありました。正しくは△△です。修正版を添付します。
統計数値の一次情報確認が漏れていました。今後は納品前チェックに追加します。
隠したり、指摘されるまで放置したりするほうが、はるかに損害が大きくなります。
クライアント対応の考え方は
クライアントに信頼される対応術|継続案件につなげる納品・連絡のコツ
にまとめています。
まとめ
- AIは「知らない」と言えない。知らないことでも、それらしく生成する
- 疑うべきは5種類:数字・法制度・固有名詞やサービス仕様・出典・時事情報
- 手順は ①洗い出す → ②一次情報で裏を取る → ③取れなければ書き換える → ④確認日を書く
- まとめ記事を根拠にしない。 発信元の公式情報にあたる
- 同じAIにファクトチェックさせない。 抽出はAI、判断は自分
- 全部を確認しない。読者が損をし得る情報(お金・法律・医療)に絞る
- 誤りが出たら、指摘される前に自分から報告する
AIを使うほど、この工程の重みが増します。
文章を書く時間は減らせますが、事実を確認する時間は減らせません。
ここを引き受けるのが、AI時代のライターの仕事だと考えています。

